鳥取境港・水木しげる記念館1


朝9時過ぎ、米子駅発の妖怪列車に乗り込む。駅の階段はねずみ男で、列車はねこ娘。ホームにも鬼太郎と一つ目小僧をはじめとするオブジェが並ぶ。しょっぱなから水木ワールド全開だ。夏休みということもあって、車内は子供連れがいっぱい。


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終点・境港駅まで、どの駅にも妖怪名がついている。すねこすり駅とか、こなきじじい駅とか。精緻なイラストと解説つき。「次の妖怪は何かなあ?」と同乗の家族連れ。でも中には、すでに疲れたらしく、ぐずりだす子供も。

駅ごとの妖怪をまめに写真に撮るのは、もっぱらお母さん(平日のためか、お父さんはいない家族が多かった)。なんなら子供以上に興味がありそう(親子あるある?)。

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ある程度思考力が育った子供なら、駅の妖怪に興味を持てるようだ。だがある駅に来て、妖怪を隠すように車窓にシェードがかかったままであることに気づいた。そのままでは妖怪が見えない。

窓際に座っているのは、二十代前半と思われる若い女性2人。米子からずっと手鏡を見つめて化粧し続けていた。窓の外の妖怪には目もくれない。

妖怪見たいなあ、開けてくれないかなあ・・という面持ちの家族連れに気づくことなく、最終駅まで一度も窓の外を見ることなく、2人は自分の顔だけを見つめていた。

境港駅も水木ワールド全開だった。駅を取り巻く妖怪のオブジェ群。駅近ビルにはお化け屋敷も。

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駅前のオブジェ 漫画ってほんとに訴求力がすごい



水木しげるロードには、精巧な作りの妖怪オブジェが並んでいる。どの妖怪も造形がリアル。すさまじい想像力。

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妖怪伝説は、どこから始まったのだろう。思いつくのは、古代のヤマタノオロチ伝説や、古事記の因幡の白兎、八百万の神々か。日本列島に棲息していた動物と、死の恐怖が作り出した幽霊と、超自然現象と、日本霊異記(平安時代)に代表される説話文学と。

説話は古代インドのジャータカ物語にさかのぼることができるから、仏教も影響を与えているのだ(※)。いろんな要素がない混ぜになって、日本独特の妖怪イメージが造られていったように思える。

※奇しくも「妖怪」という呼び名を定着させたのは、井上円了だとか。寺の息子で、のちに仏教改良運動を展開して、哲学館(今の東洋大学)を創立した思想家だ。

ちなみに西洋の場合は、一神教に由来する異物・異端の排除と、中世の未開の森を通して形成されたであろう、闇を恐怖するという自然観、この二つが影響して、あの殺伐とした幽霊(ゴースト)のイメージが形成されていったのではないか。 『グリム童話』はけっこう残酷だし、 風俗としてのハロウィーンは禍々しいし。 行き着いたのが、現代のゾンビ。

その源流にあるのは、フォビア(嫌悪)とフィア(恐怖)なのだろう。だから愛嬌がない。アニメキャラでさえ、素直な顔をしていない(アナ雪とか?)。

他方、日本の場合は、豊かな自然とアニミズムを背景としているから、動物も神々も身近な存在だ。だからみんな人間的で親しみが持てる。これが今日のゆるキャラにつながっていく。

空想上の生き物さえ、心に見えるもの(深層心理)が影響しているということか。西洋人は、日本人が作り出す妖怪や愛嬌満点のゆるキャラを真似しようにも、できないだろう。想像の原点がまるで違うからだ。

驚いたのは、あの列車の中でシェードを締め切って一心不乱に化粧をしていた女子2人組が、水木しげる記念館に入っていったことだ。

えええええ? 子供たちと同じ目的で来ていたの?? 妖怪見に来ていたのかい?? 


てっきり妖怪に飽きた地元の人かと思っていた。なぜあそこまで化粧に入れ込む必要があったのか? 妖怪級の謎といえなくもない――。


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いよいよ到着 水木しげる記念館



2025年8月4日